The Scholarly Kitchen(和訳)

【翻訳】転換契約:入門書(2023.2.12)

 

原文: Transformative Agreements: A Primer
    by Lisa Janicke Hinchliffe (Apr. 23, 2019)
翻訳: 特定非営利活動法人UniBio Press

ほとんど毎日あるいは毎週のように、出版社と図書館または図書館コンソーシアムとの間で新しい「転換契約」の発表を目にします。そして、それを読んだ人からは、すぐに疑問が発せられます。リード・アンド・パブリッシュって何?この契約はプランSに準拠しているのか?そもそもこの契約のどこが転換的なのか?

以下は、転換契約とその特性および構成要素に関する基本的な入門書です。

The York Magician
フットボーイをキャプテンに変身させるヨークの魔術師」メトロポリタン美術館

転換契約とは何か?

基本的に、図書館あるいは図書館グループから出版社に対する支払いを、購読費からオープンアクセス出版費にシフトさせることを意図した契約が、転換契約です。転換契約には多くの種類がありますが、以下は、核となる構成要素を記述しようと試みたものです。

転換契約は世界の至るところで締結されています。この1年間、特に北米では大きな注目を集めていますが、何も新しいものではありません。大手の5社はもちろんのこと、他の小規模の出版社も1つ以上の転換契約を結んでいます。これらの契約は、個々の図書館(例えば、MITとRoyal Society of Chemistry)、図書館システム(例えば、カリフォルニア大学とCambridge University Press)、または図書館コンソーシアム(例えば、VSNUとSpringer Nature)との間に結ばれる可能性があります。個々の図書館の事例としては、MITとRoyal Society of Chemistryとの契約があり、また、図書館システムの事例としては、カリフォルニア大学の図書館システムとCambridge University Pressとの契約を挙げることができるでしょう。また、オランダのVSNUとSpringer Natureの契約は、図書館コンソーシアムとの間に結ばれた転換契約の一例となります。

原則

プランSにより、転換契約は今日的な議論の中で注目を集めるようになりました。しかし、これらの契約は、プランSに先んじるものです。個々の図書館、図書館コンソーシアムそして国家レベルの組織は、転換契約のための特定の要件を定めています。例えば、転換的オープンアクセス契約の要件:迅速で世界規模のオープンアクセスへの移行を加速するためには、Jisc Collectionsおよび英国の高等教育機関に対するガイダンスを提供しています。同様に、カリフォルニア大学でのジャーナル契約交渉:行動の呼びかけは、カリフォルニア大学システムに向けた手引きとなっています。「EASC:論文掲載料のための効率化と標準(マックス・プランク研究所デジタルライブラリ)」は、国際的に通用する交渉原則のリストを提供しています。

転換契約の原則には、通常、購読ベースのリーディングから契約ベースのパブリッシングへの移行に関連する多数の要素が含まれています。

  • コスト
    図書館は、オープンアクセス出版エコシステムへの動きを促進する目的で、購読料の支払いから出版料の支払いに移行するという転換契約を求めています。図書館はまた、特にオープンアクセス出版の義務の下で、出版に対する支払いの増加を管理しようと試みるために、転換契約を追及するかもしれません。

  • 著作権
    転換契約では、著作権は出版社に譲渡されるのではなく、著者が保有することが求められる傾向があります。これは出版社が出版ライセンスを取得することによって達成されるかもしれませんが、転換契約では、著作権の保持と、著者が出版された論文と著者版にクリエイティブコモンズライセンスを適用するという要求が抱き合わせにされる傾向が強いようです。また、一般に、CC BYが推奨され、あるいは義務化されることが多くなっています。 
  • 透明性
    転換契約では、契約条項を公にすることが原則とされています。しかしながら、完全な契約条項が公表されることもありますが(例えば、DEALとWiley)が、オープンアクセス転換契約の忠実な支持者でさえも、重要な構成要素の概要のみを提供することもあります(例えば、マックスプランクデジタルライブラリとアメリカ化学会との契約)。
  • 過渡的であること
    定義の上では、転換契約は、読むための支払いから出版のための支払いへの移行の道を模索するという点で過渡的なものと言えます。それらは、購読ベースの読むための支払いが存在しなくなる最終状態に基づいています。 この契約では、購読に基づく読むための支払いが消滅することが、最終的な状態とされています。この最終的な状態はすぐに実現されるものではありませんが、オープンアクセスへの移行と、それに伴い、読むための支払いではなく、出版のための支払いに転換することが目標となっています。

転換契約には、まだ明確に規定されていない要素がいくつか認められます。たとえば、契約には出版社のポートフォリオのすべてのタイトルが含まれているのかどうか。また、契約にはそのポートフォリオのハイブリッドおよびフルオープンアクセスジャーナルの両方が含まれているのか。さらに、オープンアクセス出版の支払いがアラカルト方式なのか、あるいは、出版し放題の方式なのかどうか。これらが、明確に定まっていない要素の例です。出版社のポートフォリオのどの部分が転換契約に含まれるのかについては、他のタイトルまたはサービスの提供に関する追加の契約によって補完されることがあります。

リード・アンド・パブリッシュ(Read-and-Publish) 対 パブリッシュ・アンド・リード(Publish-and-Read)

転換契約は、「リード・アンド・パブリッシュ」、あるいは「パブリッシュ・アンド・リード」と言われることがよくあります。

「リード・アンド・パブリッシュ」契約は、出版社が読むための支払いと出版のための支払いを、一つの契約としてまとめて受け取る方式です。このようにバンドルすることで、出版に対する支払いを、オープンアクセス出版を選択する個々の著者から受け取るのではなく、ひとつの契約にまとめます。契約上の取り決めに基づく出版料に加えて、転換契約は、購読ベースのリーティングのために費やされていた資金を、出版のための費用に振り替えることを目指しているのです。そして、最終的には、それまでの購読による読むための費用と同等のコストでリード・アンド・パブリッシュを実現することを目標としています。さらに、よりアグレッシブな図書館は、コストに中立なアプローチではなく、価格の引き下げを求めています。しかし、これまでのところ、成功した転換契約のいくつかはコスト中立ですが、以前よりコストがかかっている契約もあります。また、価格の上限を定めたり、トータルコストの管理を含めたりする契約も認められます。

対照的に、「パブリッシュ・アンド・リード」契約は、出版社が出版のための支払いのみを受け取り、追加費用なしで読むこともできるという契約です。ここでもまた、図書館の目標は、通常、以前の購読ベースのリード契約と比較してコストが増えない契約、さらには価格の引き下げです。但し、これらの目標は必ずしも実現されているわけではありません。

出版社から見ると、結果として得られる合計支払い額が許容可能であり、長期的な財政の健全性が損なわれない限り、たとえ収入が減少したとしても、ある契約が「リード・アンド・パブリッシュ」なのか、あるいは「パブリッシュ・アンド・リード」なのかはどちらでもかまいません。一部の出版社は、この種の契約の妥当性に疑問を投げかけ、それらは長期的には持続不可能であると示唆しています。さらに、ある出版社は、このような契約は現在のところ広く望まれているわけではなく、一部の図書館や学術機関は出版料を支払うことができないと述べています。

単一の図書館の場合、契約が「リード・アンド・パブリッシュ」なのか、あるいは「パブリッシュ・アンド・リード」なのかはそれほど重要ではないかもしれません。ただし、図書館コンソーシアム内では、「パブリッシュ・アンド・リード」契約は、「リード・アンド・パブリッシュ」契約よりも、コストの比例配分に大きな影響を与える可能性があります。「リード・アンド・パブリッシュ」契約では、コンソーシアム内のすべての図書館は、読むためのアクセスに対して責任を負うが、「パブリッシュ・アンド・リード」契約では、論文を出版する研究者を持つ機関の図書館のサブグループのみがコストを負担する可能性があります。

結語(おわりに)

「プランSの実施に関するガイダンス」のドラフトには、転換契約に関する実質的な議論(セクション11)が含まれていることは注目に値します。またドラフトには、2019年にcOAlition Sが転換と見なすものと、2020年以降に必要とされるものについて、追加の考察が含まれています。具体的には、ガイダンスでは、2020年以降、転換契約の交渉は2021年末までに締結する必要があり、そのような契約は3年を超えて継続することはできないと述べられています。この文章がガイダンスの最終版に残るかどうかはまだ明らかではありません。それが残るならば、ESACが転換契約として列挙している契約が、cOAlition Sによっては転換契約と見なされないという現実に直面するかもしれません。これは「ブロンズ」オープンアクセスが本当にオープンアクセスであるかどうかの問題と同じであり、人によって回答が異なる問題です。

出版社と図書館との間の転換契約に加えて、様々な転換メカニズムを通してオープンアクセス出版を支援するためのモデルが他にもあります。ここではこれらの他のアプローチについては説明しませんでしたが、それらは「オープンアクセスとPlan Sを加速したいと考えている学会系出版者のための移行戦略とビジネスモデルに向けて」のセクション4で説明されており、とても役に立つものです。これらのメカニズムの中には、転換契約と並行して同時に進めることができるものもあれば、それができないものも含まれています。

「転換契約」それ自体を定義することに関しては、オープンアクセスを定義しようとする試みから、この種の定義に関する議論は、絶えず繰り返されることが経験的にわかっています。本記事では、最近の契約やポリシー文書で使用されている用語を総合的に説明しました。転換契約が急速に発展している分野であることを考えると、用語は時間とともに洗練され続けるでしょう。われわれの集団的な理解に明確さとニュアンスを加えるためのコメントやフィードバックを歓迎します。

Lisa Janicke Hinchliffe

Lisa Janicke Hinchliffeはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の教授/大学図書館の研究・教育専門家育成コーディネーター、情報科学部およびグローバル研究センターの提携教員。lisahinchliffe.com

(著作権に関する注意書き)

本記事の原文の著作権は、著者が保持しています。著者は、SSP(Society for Scholarly Publishing)に対して、本記事をあらゆる言語で世界中に配布する権利を許諾しています。UniBio Pressは、SSPから許諾を得て、本記事を日本語に翻訳し、本サイトに掲載しています。

 

 

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