The Scholarly Kitchen(和訳)

【翻訳】出版社はプレプリントに投資する(2023.1.25)

 

原文: Publishers Invest in Preprints
    by Roger C. Schonfeld, Oya Y. Rieger (May 27, 2020)
翻訳: 特定非営利活動法人UniBio Press

何年も前から、プレプリント・コミュニティは、多くの人にとっては面倒な編集や査読プロセスのように思われていたものが、スピードと効率性によって、ジャーナル出版システムに代わるものになるかもしれないという兆しを見せてきました。1991年に高エネルギー物理学などの一部の分野で始まったことが、近年では生物医学を含む他の分野でも定着し始めています。本日、Ithaka S+Rは、競合する情報環境の中で信頼を築き、持続可能なビジネス戦略を構築しようとする中で、様々な政策課題に取り組んでいるプレプリント・コミュニティの主要な発展の概要を発表しました。

Rob Johnson氏とAndrea Chiarelli氏は最近、出版社がプレプリントに関わる際に直面する選択肢のいくつかを取り上げました。近年、一般的に分野や分野を中心に組織されたプレプリント・コミュニティを超えて、すべての大手出版社がプレプリント・プラットフォームへの独自の投資を行っていることがわかります。出版社は、プレプリントデポジットを論文投稿ワークフローに統合し、プレプリントの支配権を取り戻すために設計された共通の戦略を採用しています。

Julia Hardin
(最初のプレプリント・サービスは、ロスアラモス研究所で創設されました。「ロスアラモス研究所は、所内雑誌「The Atom」を発行していました。1974年、この雑誌は女性科学者にスポットを当て、Julia Hardinが表紙を飾りました。」)

 Springer Nature

 2018年に立ち上げられたResearch Squareは、現在、世界で最も急成長しているプレプリント・プラットフォームとしてマーケティングされており、2020年5月時点で20,000件以上のプレプリントをホスティングしています。Springer Natureは重要な少数株主であり、元Springer Natureオープンアクセス部門の幹部であるRachel Burley氏がResearch Squareの社長を務めています。昨年、Springer Natureの厳選されたタイトルに投稿された原稿のプレプリントをホスティングする重要な取り組み、いわゆる「In Review」サービスを開始しました。

 In Reviewは、投稿時に論文をオンラインで公開するオプションを著者に提供するプレプリント・サービスです。また、著者と読者は、査読プロセスの間、査読のタイムラインを介して原稿の状態を知ることができます。原稿が出版に向けてアクセプトされなかった場合、そのプレプリントはプラットフォーム上に残りますが、ジャーナルのブランディングや投稿プロセスの情報からは切り離されます。

Springer Natureの目標は、ジャーナルのウェブサイトとResearch Squareのプレプリント・サイトとの間の一対一のリンクを提供することではありません。むしろ、プレプリントは著者の選択に応じて様々な場所に設置することができます。しかし、Springer Natureのプラットフォーム上で公開された論文の元となったResearch Squareのプレプリントには、プレプリントから記録のバージョン(Version of Record)へのリンクが設定されます。Springer NatureのSteven Inchcoombe氏は、これを「ジャーナル中心ではなく、論文中心のアプローチ」と説明しています。

Springer Natureが最初にIn Reviewサービスを導入したのは、オープンアクセスのポートフォリオ(SpringerOpenBioMed Central)で、それは、著者がこのサービスを受け入れる可能性が最も高いと考えられたからです。このサービスは、やがてSpringer Natureのハイブリッド・ジャーナルや伝統的なジャーナルのほとんど全てのポートフォリオに拡大されることになるでしょう。

このようなサービスを実現するためのワークフローは、特にシステム間の相互運用性が求められるので、決して簡単なものではありません。原稿投稿システムは、著者が特定のジャーナルの審査のために論文を投稿し、編集と査読プロセスを管理するためのものであり、その要となるものです。これらのシステムで有効なワークフローは、著者が論文をプレプリントとして投稿するかどうかを選択できるように修正する必要があります。著者がプレプリントオプションを選択した場合、システムは(原稿とそれに付随するメタデータの両方の)デポジットを明確に開始しなければなりません。そして、このプロセスは、プレプリント・プラットフォームへの投稿に対して実施されている(盗用や倫理的配慮などの)スクリーニングプロセスと適切に連動していなければなりません。原稿がジャーナルの編集および査読プロセスを通過する際には、更新された進捗情報をプレプリント・サイトと共有しなければなりません。そして最後に、論文が公開されると、論文へのリンクがプレプリント・プラットフォーム上に置かれ、原稿がリジェクトされたり取り下げられたりすると、プレプリントのメタデータが他の方法で更新されます。このように、原稿投稿・管理システムとプレプリント・サービスの間の往復は広範囲にわたっています。

現在のIn ReviewサービスのSpringer Nature誌は、Aries/Editorial Managerを論文投稿プラットフォームとして利用しています。私たちはこれに注目していました。というのも、Aries社がElsevierに買収された後も、ElsevierがAries社の中立性を維持することを疑問視する声があったためです。しかし、実現に至るまでの経緯はさておき、ElsevierのAriesは現在、Elsevierが所有するSSRNではなく、Springer NatureのResearch Squareに原稿をデポジットすることができるワークフローをサポートしています。これを、出版社間の相互運用性のための意味のある勝利と理解する人もいるでしょう。Springer Natureとその配下の学会出版社は他にも3つの論文投稿・管理システムを利用しており、In Reviewを拡張するには、Research Squareへのリンクを可能にする変更をこれらのシステムに加える必要があるでしょう。

Inchcoombe氏は、Digital Scienceを快く「姉妹企業」と呼び、Springer NatureのResearch SquareとDigital ScienceのFigshareが、時間がたつにつれてより密接に連携する方法がないとしたら驚くべきことだと強調しました。私たちの一人が提起した両者の関係への疑問や、Digital Scienceが独立性を強調していることを考えると、Springer Natureの視点からファミリー関係の本質を聞くのは興味深いことです。

Wiley

WileyのTodd Toler氏は、「我々はプレプリントを非常に推進しています」と強調しています。上記のSpringer Natureのサービスと同様に、WileyのUnder Reviewサービスでは、著者は、自分の原稿がWileyジャーナルで編集者による査読を受けている間に、その原稿をプレプリントとして投稿することができます。Under Reviewは現在、年初の予備的な実験から次の段階に移りつつあり、Wileyはパンデミック研究に最も関与しているジャーナルに対応するために、予想以上に早くUnder Reviewの対象誌を37誌(従来型/ハイブリッドと純粋なオープンアクセスのタイトルの混合)に拡大しました。このサービスの結果、ワイリーのパイロットジャーナルへの投稿の3分の1強がプレプリントとして投稿されるようになりました。

著者がプレプリントの投稿に同意すると、プレプリントはWileyのAtypon出版テクノロジービジネスの共同オーサリングプラットフォームであるAuthoreaにデポジットされます。論文がアクセプトされなかった場合、プレプリントのメタデータは当該ジャーナルの論文投稿プロセスから切り離されますが、査読状況や最終的な出版についての情報は,そのプレプリント上で入手可能です。これは、論文投稿システムとプレプリント・プラットフォームの間のもう一つの接点となります。

このワークフローは複雑であるため、パイロットには一定の制限があることは理解できます。今のところ、このサービスはWileyのジャーナルのみに提供されています。最終的には、Atyponのプラットフォームのすべての顧客が利用できるようになる可能性があります。出版社がAtyponから例えばSilverchairに変更した場合に、これらのプレプリントが移植可能なものになるのか、あるいは出版社がAtyponのスタックに留まるようにするための、誘引剤のような役割を果たすことになるのか、興味深いところです。現在は、Under Reviewは1つの論文投稿システムに限定されています。Wileyのジャーナル・ポートフォリオは複数の論文投稿システムで運用されていますが、これまでのところUnder Reviewのワークフローに対応しているのはScholarOneのみです。Springer NatureはすでにAriesを利用してResearch Squareに投稿することができており、Wileyも同様にAriesを利用してAuthoreaに投稿することができるようになる日も遠くはないでしょう。

Elsevier

Springer NatureとWileyがそれぞれResearch SquareとAuthoreaを使って、よく似た投稿統合型のモデルを追求しているのに対し、ElsevierはSSRNというはるかに強力な基盤を手に入れました。2016年にElsevierがSSRNを買収したことの意味するところは、単に技術プラットフォームを購入したことにとどまらず、より重要なことは、分野別コミュニティ(または「研究ネットワーク」)一式を手に入れたということでした。買収後、SSRNはそれまでのコミュニティを継続的に発展させ、現在50以上のコミュニティをホストしています。

Elsevierが2018年に買収したAries Systemsは、出版ワークフローソリューション一式を提供しており、中でもEditorial ManagerはSpringer NatureのIn Reviewシステムの一部として上記で言及しました。Aries Systemsは、パズルの重要なピースとなっており、SSRNの買収時の社長であるGregg Gordon氏も、買収後の一定期間、Ariesの一部の担当を任されていました。

「私たちはプレプリントが出版された論文の代わりになるとは決して考えていません」と、先週Gordon氏が説明してくれました。Elsevierは、Springer NatureやWileyと同じように、プレプリントとSSRNをAries / Editorial Managerの出版ワークフローに接続するシステムを着実に開発してきました。

Elsevierはまず、ジャーナルに投稿された原稿をSSRN上でプレプリントとして閲覧できるFirstLookサービスを開発しました。現在、約60のジャーナルがこのサービスを利用し、SSRN上にプレプリントのブランドホームを作っています。特にパンデミックに関連する研究については、Cell PressやLancet(すべてElsevierによる出版物)のタイトルでかなりの導入が進んでいます。Gordon氏は、Cell PressやLancetの編集者による基本的な編集審査なしに、医学関連資料がプレプリントとして発行されることはないと強調しています。Gordon氏は、Elsevierが「他の出版社のいくつかのジャーナルとFirst Looksの立ち上げについて活発に話し合っている」と話してくれました。SSRN/FirstLookサービスが、Aries/Editorial Manager以外の原稿投稿サービスと統合されるかどうかは、興味深いところです。

FirstLookは、原稿がジャーナルに投稿され、比較的簡易な編集審査を経て、プレプリントとしてデポジットされ、査読を含むその後の編集作業が行われるという点で、In ReviewやUnder Reviewと非常によく似たワークフローを持っています。しかし、Gordon氏は、SSRNの研究ネットワークを通じてプレプリント(およびその著者)が研究コミュニティと密接に関わることができるという点で、FirstLookはIn ReviewやUnder Reviewと区別されると言っています。これにより、著者は、ジャーナル編集のプロセスと並行して、自分の論文に対してより建設的な関わりを期待することができ、原稿に対する追加的な意見を受け取ることができます。そして出版前に論文を改善することが可能となります。また、現在、Aries/Editorial Managerのワークフローを使用して、ジャーナルブランドのFirstLookを使わずに、SSRNの研究ネットワークに直接論文を投稿できるようにするための試験的な取り組みも行われています。

そして、Elsevierは、Aries / Editorial Managerを使用しているジャーナル編集者が、研究ライフサイクルの早い段階で、SSRNに掲載されているワーキングペーパー、プロシーディングス、プレプリントなどのコンテンツの中から原稿を探し出すことができる「SSRNからの取り込み」ワークフローを開発中です(このワークフローはまだリリースされていません)。「垂直スタック」の原稿探索サービスを提供する価値があるとすれば、それはSSRNがジャーナルに投稿される前の原稿のデポジットと、それに伴う研究者間の意見交換という活発なプレプリント・コミュニティを持っているためです。SSRNは、Elsevierの他の部門との統合を続けており、例えばMendeley、Mendeley Data、Pure、Plumとのコンテンツ交換を可能にしています。また、エルゼビアが2017年にbepressの一部として買収したリポジトリサービスであるDigital Commonsとの統合も試験的に行っています。Digital Commonsは、学術機関の顧客のために多数のプレプリントをホストしており、SSRN/Ariesの統合の一部は、いつかDigital Commonsにも引き継がれるかもしれません。

Taylor & Francis

Springer NatureとWileyがそれぞれ論文投稿のワークフローにプレプリント・プラットフォームを導入し、Elsevierが論文投稿とSSRNプレプリント・コミュニティの双方向フローを確立しているとすれば、2020年1月にF1000 Research(以下、F1000)を買収したTaylor & Francis(T&F)は、編集プロセスのさらに大胆な変化の可能性を見据えているようです。

多くの点で、F1000は、上述の他の出版社が既存のシステムで実現しようとしているワークフローを提供しています。F1000のLiz Allen氏がわれわれに説明したように、F1000は「出版モデルを変えたい」と考えていますが、レガシーシステムを作り変えようとしているわけではないので、それを実現するのに適した立場にあります。確かに、F1000は、出版後の「オープン査読」モデルや、ウェルカム財団、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、アイルランド・ヘルス研究委員会、そして最近では欧州委員会などの資金提供者に特化したポータルサイトに重点を置いていることで多くの注目を集めています。しかし、本記事の目的に照らして見ると、F1000は、投稿からプレプリント、査読、出版に至るまでの優れた出版ワークフローを提供するものとして理解するのが最も適切でしょう。著者が原稿を投稿し、剽窃などの基本的な編集レビューを受けると、「プレプリント」とみなされるバージョンが「出版」され、査読プロセスが開始されます。(オープンな)査読が行われ、著者には論文を修正する機会が与えられます。

F1000のモデルは、他の出版社などがとっているアプローチと同一ではありません。F1000は(まだ)オープン査読の方向には動いていません。また、リジェクトされたり、取り下げられたりした原稿のプレプリントをジャーナル投稿のワークフローから切り離し、別の場所に再投稿して出版できるようにすることに注意を払っています。それでも、このF1000の基本的なワークフローは、他の出版社が向かっている方向であるように見えます。

このことを念頭に置くと、F1000は、T&Fが自社のより伝統的な出版プログラムの他の部分に採用したいモデルワークフローであると予想するのは妥当なことです。すでに、F1000は、Emerald Publishingなどの他の出版社のオープン出版ワークフローの基礎として利用されています。 F1000のワークフローだけでなく、その技術スタックやその要素も、やがてT&Fで大規模に使用されるようになるのかどうかは興味深いところです。T&Fは、F1000の買収によって、オープンアクセスサービスだけでなく、Atypon/LiteratumやScholarOne、Ariesに代わる技術スタックを購入したのかもしれないと考えれば、この買収は一部の人が認識している以上に興味深いと言えるでしょう。

その他

以上の出版社の他にも、多くの出版社がプレプリント・サービスを運営しています。これらのほとんどは、プレプリント・コミュニティを構築しようとする学会で、まだ出版ワークフローにはまだ接続されていません。たとえば、以下のような例があります。

 ・IEEE は、電気工学、コンピュータサイエンス、および関連分野の技術研究を対象とした TechRxiv を運営しています。

・米国化学会、英国王立化学会、日本化学会、中国化学会、ドイツ化学会は、ChemRxiv を運営しています。

・米国地球物理学連合は、Atypon および Wiley との提携により、Earth and Space Science Open Archive (ESSOAr)を運営しています。

・また、米国政治学会(APSA)は、Cambridge University Pressと共同でAPSA Preprintsを運営しています。

学会あるいはその連合体に付属するプレプリント・コミュニティは、学会のピア(同僚研究者)ネットワークを拡大するために生まれたと言ってもよいでしょう。

さらに、エルゼビアがSSRNに期待しているように、他のいくつかの出版社も、論文調達の目的でプレプリントを活用することができるのではないかと考えています。SAGEは、人文・社会科学の研究に焦点を当てたAdvanceというプレプリント・サービスを運営しています。Advance は、Figshare のプラットフォーム上で動作しています(他のプレプリント・サービスもFigshareを利用しており、そこには学会が提供しているサービスも含まれます)。Advanceへの掲載が承認されると、著者の選択により、SAGEのジャーナルに論文を投稿することができます。同様に、eLifeは最近、bioRxivに投稿された論文を、eLifeでの出版することと、bioRxivのサイトでパブリックコメントを付することの両方を可能とするために、プレプリントを査読するサービスを開始しました。SAGEとeLifeの例は、出版社がプレプリント・サービスを論文調達のプラットフォームとして見ていることを示しています。

考察

プレプリントは必ずしも確固とした評価を得られているものではありませんし、プレプリントをあまり好ましく思っていない人々もいます。特にKent Anderson氏は、この1年間、学会や自身のブログ「The Geyser」でプレプリントに反対する戦いを繰り広げてきました。彼は、プレプリントが科学的コミュニケーションの文化や実践に与えるダメージについて、さまざまな議論を展開しています。しかし、大手出版社はこれに同意していないようです。プレプリントは注目を集め、現在、大手出版社はそれぞれかなりの投資をしています。

確かに、出版社はプレプリントについて異なる考えを持っており、また開発段階も異なっています、大手の商業出版社が歩調を合わせて、厳しいシステム環境の中で、出版ワークフローを拡張し、プレプリントを取り入れるために取り組んでいることは明らかです。

出版社は、二つの目的を組み合わせているようです。第一に、出版社は、査読プロセスやそれに必要な時間を損なうことなく、学術コミュニケーションのペースを加速させるために、プレプリントを利用しようとしているようです。プレプリントをサードパーティではなく、自社のサービスから配布することにより、投稿からわずか数日でプレプリントを配布したと主張し、投稿から出版までのタイムラインについて批判を受けることを避けることができるのです。また、編集や査読のプロセスが提供する正確な価値を、それについて疑念を抱く人々に示すことができるようになります。

しかし、より重要なのは、プレプリントを出版ワークフローの中に取り込むことです。これにより、学術の記録のバージョン(version of record)とその完全性の重要性を強調する機会が得られます。また、データセット、プロトコル、研究および出版プロセスのその他の成果物を含む、研究ワークフロー全体に対する管理能力を最大限に高めることができるようになります。成功すれば,やがて出版社は、やがては最終的な出版物となるプレプリントを「野放し」にすることを減らし、自社が管理するサービスやワークフローのなかに、より多くのプレプリントを取り込むことができるようになるでしょう。

これらのワークフローを導入する副産物として、出版社はやがて、既存のプレプリント・サービスの一部で利用されてきたものよりも効率的で一貫した品質管理のレイヤーを導入できるようになるかもしれません。研究者や一般市民にとって、これは出版社の関与がもたらす利益となるでしょう。プレプリントのうち、最終的に査読付き雑誌に掲載されるのは50~70%に過ぎないことを考えると、今後も出版社が出版を希望する研究論文の初期バージョンに焦点を当てていくのか、あるいは短報や事例報告など、他の出版形式の初期バージョンにも手を広げていくのかは興味深いところです。

そして、その関与には少なからぬ投資が必要です。プレプリント・プラットフォームの購入や構築にかかる費用だけでなく、ワークフローとその結果としてのプラットフォーム統合の課題にも相当なコストがかかります。いくつかの大手出版社は、既存の原稿管理システムを修正することにより、プレプリント・サービスと連携したワークフローを実現しようとしています。T&Fは、他とは異なりアプローチをとっており、F1000プラットフォームを拡張することで、より柔軟性を高めることを想定しています。特にElsevierによるAriesの買収を考慮すると、この領域での競争力学は今後も興味深いものになるでしょう。

出版社がプレプリント事業に参入することで、そこでの支出にかかわらず、実質的な収益機会を得ることができるかどうかは明らかではありません。これは、ワークフローの管理を強化し、学術の記録のバージョン(version of record)を守るための機会なのです。今後のKitchenで、プレプリントに関する出版社の取り組みが、他の研究者コミュニティによるプレプリントの取り組みとどのように結びついていくのかを探っていく予定です。

この記事の作成にあたり、インタビューやその他の協力をいただいた以下の方々に感謝します。Liz Allen, Camille Gamboa, Gregg Gordon, Shari Hofer, Steven Inchcoombe, Eric Merkel-Sobotta, Kristen Modelo, Alberto Pepe, Caroline Sutton, Todd Toler, David Tucker, Susie Winters. また、Kimberly Lutzには、この論文の草稿に目を通していただき、ありがとうございました。

Roger C. Schonfeld

Roger C. Schonfeldは、ITHAKAの組織戦略担当副社長であり、Ithaka S+Rの図書館、学術コミュニケーション、博物館プログラム担当です。研究、学習、保存を促進するために、図書館、出版社、博物館の間で証拠に基づく革新とリーダーシップを推進するための調査を実施し、助言サービスを提供する主題と方法論の専門家とアナリストのチームを率いています。また、研究図書館センター(Center for Research Libraries)の理事を務めています。以前は、アンドリュー・W・メロン財団のリサーチ・アソシエイトを務めていました。

Oya Y. Rieger

Oya Y. Riegerは、Ithaka S+Rの図書館・学術コミュニケーション・博物館チームのシニアストラテジストです。研究図書館におけるコレクションのあり方の再検討、学術的記録へのアクセスと保存の確保、オープンソースソフトウェアとオープンサイエンスの可能性を探るプロジェクトの指揮を執っています。

(著作権に関する注意書き)

本記事の原文の著作権は、著者が保持しています。著者は、SSP(Society for Scholarly Publishing)に対して、本記事をあらゆる言語で世界中に配布する権利を許諾しています。UniBio Pressは、SSPから許諾を得て、本記事を日本語に翻訳し、本サイトに掲載しています。

 

 

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